大人の弘道館2(4)

「シュガーロード学」

-目と耳と舌で旅する、菓子文化ツアー-

オンデマンド講座(フルバージョン)
 
40分版

  • 講師
    • 村岡 安廣 先生 (小城羊羹協同組合理事長/株式会社村岡総本舗代表取締役社長)
    • 岩永 真理子 先生 (株式会社佐賀新聞社メディア局コンテンツ部 Fit ECRU編集者)
  • ゲスト
    • 岩永 徳二 先生(有限会社梅寿軒 代表取締役)
    • 上野 晶子 先生(北九州市立自然史・歴史博物館学芸員)
    • 堤 一博 先生(株式会社鶴屋菓子舗 代表取締役社長)
  • 日時:2022年11月26日(土)
  • 会場:村岡総本舗カフェ

講座レポート

今回は、年に一度の『大人の弘道館2』。佐賀ん酒、嬉野茶、大隈重信に続く第4弾でテーマは伝統菓子。佐賀県を横断する長崎街道は、別名「シュガーロード」と呼ばれ、2020年に日本遺産に登録されています。その歴史や街道沿いに花開いた菓子文化に触れながら、伝統菓子の未来について熱く語りあおう!という内容なんですが、なんと美味しいお菓子を“食べながら”という特典付き。そして、3地域を巡るシュガーロードのバーチャルツアーまで。参加したのは幅広い年齢層の受講生18名で、会場は小城羊羹で知られる小城町の村岡総本舗カフェです。

さあ、目と耳と舌で旅する菓子文化ツアーのはじまり、はじまり~。

まずは、シュガーロード連絡協議会会員で、菓子文化に造詣が深い村岡安廣先生のお話から。なんといっても驚いたのは、シュガーロードは砂糖が運ばれた道ではない!という事実。「シュガーロードとは砂糖の交易路を意味するものではない。砂糖のほとんどが船で運ばれていたので、砂糖の道は海にあった」と村岡先生。ではなぜ、シュガーロードという呼び名がついたのか?それは、長崎街道を行き来する職人や商人、医者といった人々が砂糖文化や菓子の技術を浸透させたから。つまり、シュガーロード=砂糖文化が栄えた地域で、伝統製法が今も残されているということなのです。

それでは、伝統製法と現代製法のお菓子を食べ比べてみよう!と2種類の小城羊羹が登場。一昼夜寝かして固まった羊羹を切り分けた伝統製法と、アルミケースに充填された現代製法。食べ比べた受講生たちは、その違いにビックリ。「舌触りが違う。伝統製法はシャリシャリしてる」、「伝統製法で作られた切り羊羹は味が濃くて、現代製法はさっぱりしている」など、感想はさまざまでした。

意外だったのは、村岡先生の「羊羹は水を味わうお菓子だ」という言葉。羊羹は和菓子の中でも水を多く使うため、水の入り方が原料の一つともいえるそう。小城羊羹が”甘すぎない”という感想が多かったのも、水が薄味を出しているからで、とくに昔は薄味が粋だったとか。ちなみに、小城といえば清水川という全国有数の名水が流れる地で、名水に育まれた小城羊羹ともいえるでしょう。

さあ、いよいよバーチャルツアーの時間です。長崎市・佐賀市・北九州市をZoomでつないで、ゲストのみなさんとおしゃべりをするという、弘道館2初の試みです。
まずは長崎市からで、天保元年創業の岩永梅寿軒の岩永徳二さんが登場。「昔は、甘いものを”うまい”と言っていた。砂糖は大事なものを引き出してくれる役割があり、たくさん使うことで防腐剤にもなる」、「若い人たちには、物語のあるお菓子を作って欲しい」など、職人ならではのご意見をいただきました。お話のお供に出てきたのは長崎カステラ。実は数量限定販売の梅寿軒のカステラは、入手困難な人気商品ということで皆さん嬉しそうに食べていました。

次は佐賀市からで、画面には鶴屋菓子鋪15代目の堤 一博さん、会場にはおなじみの丸ぼうろが登場。寛永16年創業の南蛮菓子の老舗で、大隈重信が鶴屋の丸ぼうろを愛したというエピソードもあります。伝統製法を大切に守りながらも、現代風のアレンジにも積極的で、丸ぼうろに合うアイスクリームやジャムを開発。店に伝わる古文書を活用しながら、「現代の価値を味に上乗せすることで、伝統をつないでいきたい」など、未来への想いも語ってくれました。

ゴールは北九州市です。博物館学芸員の上野晶子さんがレポートしている場所は常盤橋。長崎街道の出発点であり終点です。そして、紹介してくれたお菓子は入江製菓の金平糖。昭和9年創業で、長崎・佐賀と比べると新しい店のようにも思えますが、金平糖は製鉄所で働く人々に愛された味であり、地域で育まれた菓子文化でもあります。「食べたお菓子の味や匂い、思い出や記憶は残ります。いろんな形で未来につないでいくために、今あるお菓子は調査して、過去のお菓子は研究して、記録として残したい」と、学芸員ならではの話が印象的でした。

ガイド役を務めた、ゲスト3人の興味深いお話に大満足、お腹いっぱいのバーチャルツアーとなりました。さあ、最後はみんなで伝統菓子の未来について語り合いましょう。

まずは、ファシリテーターを務める佐賀新聞社の岩永真理子先生が、若い世代にも興味をもってもらえる伝統菓子のアレンジを提案。例えばパフェのように、小さくカットした丸ぼうろにバニラアイスやクリームチーズ、果物などを重ね、仕上げは削った羊羹をトッピング!斬新かつおしゃれな組み合わせで、ぜひとも真似してみたいし、見せ方も重要なポイントだと学べました。会場の皆さんからも、「重たいけど、上京するときは必ず小城羊羹を持っていく」、「自転車の補給食として羊羹を食べていたけど、久しぶりに食べてこんなに美味しかったんだ!と思った」、「せっかくこういったカフェ(今回の会場は羊羹資料館の隣)があるんだから、期間限定で羊羹トーストを出すのもいい」など、いろんなアイデアや意見をいただきました。

恒例の佐賀弁メッセージは、「人生もお菓子も楽しんだもの勝ちばい」(岩永先生)、「伝統菓子、和菓子のシュガーロードは、すっぱいおいしかばんた」(村岡先生)。参加した受講生からは、「シュガーロードのことはそれなりに知っていたつもりだったけど、知らないことも多かった。佐賀の魅力を上げるためには、県民も頑張らないといけない」(宮島隆さん)、「大学で炭鉱の歴史や文化を勉強していて、炭鉱夫たちのエネルギー補給のお菓子からシュガーロードに行きついた。伝統菓子はおばあちゃん家で食べるイメージだったけど、アレンジの仕方を聞いたら身近なものに思えました」(青木美玖さん)など、感想をいただきました。

講座終了後、メイン講師を務めた村岡先生は、「今までにないスタイルの講座でした。時代の波をどう乗り切っていくか、どうチャレンジしていくかという、業界にとっても伝統菓子を見直す一つの転換点になったと思います」と振り返りました。

まさに、これからのお菓子との付き合い方が変わる、食べ慣れた伝統菓子の可能性と奥深さに地元の人たちが気づく講座となりました。現代風のアレンジができるのも、スタンダードな美味しさがあってこそ。コーヒーやお茶のお供だけでなく、アイデア次第でお酒にあう大人のアレンジだってできるかも。もっと自由な発想で、もっと気軽に伝統菓子を楽しみましょう!

 

講師プロフィール

村岡 安廣

小城羊羹協同組合理事長・株式会社村岡総本舗代表取締役社長
小城羊羹を製造販売する、明治32(1899)年創業の村岡総本舗の四代目当主。
肥前の菓子文化や歴史に造詣が深く、著書を出版し、市民向けの講座などで講師も務める。

岩永 真理子

株式会社佐賀新聞社メディア局コンテンツ部 Fit ECRU編集者
佐賀新聞の食いしん坊担当。佐賀の毎日を楽しくする情報紙「Fit ECRU」の編集者として、佐賀の“おいしい”を探求すること12年。
得意分野はスイーツ、パン、カフェ。「運動せずに痩せる」が永遠のテーマ。

ゲスト

岩永 徳二/有限会社梅寿軒 代表取締役

 

上野 晶子/北九州市立自然史・歴史博物館学芸員

 

堤 一博/株式会社鶴屋菓子鋪 代表取締役